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今を生きる

[2020.04.27]

あいりすの活動も三週間が過ぎた週末。今日も利用者様のお宅を訪問させて頂けている。

  ひと通りのケアを済ませ、ベッドアップで座位を取り、ゆっくりとお茶を一口含まれる利用者さま。

  突然に『お父さん、タヌキに囲まれて過ごして!』と彩り豊かなタヌキのぬいぐるみたちがゴロゴロとベッドの上へ。ただならぬタヌキたち。35年以上も前にご本人がUFOキャッチャーで取り集められたもの。きっと、幼かった三人の娘様たちへ思いを込めて取り集めてくださった物なのだろう。

次に出てきたものは本人ご愛用の中折れ帽子。

『帽子が好きでね。似合うのよ!これにサングラスをいつもかけて…』と奧さまはご主人に帽子を被せサングラスをかける。『はい、こっち向いて!』という言葉には無反応。にこりともされず。ちょっと迷惑そうに、でも嫌がらずタヌキを膝に、ハットとサングラス姿で嫁いだ娘様やお孫さんをチラ見されていた。

 

  積極的な治療も出来なくなった、がんの終末期。

『死ぬなら家で死にたい』と、話されたご主人様の思いに寄り添い、小さな身体で献身に介護を続けられる奧さま。調子の良い日は夫婦喧嘩もしながら毎日が過ぎていく。

(ご家族の了承の元、掲載させていただいてます)

  訪問させていただいて二週間余り。厳格な彼の本当の姿を私は知らない。でもタヌキのぬいぐるみから、愛娘様たちの優しい父親像を、そして彼が愛用されていた品々からは元気な頃の彼の姿が想像できた。

  長い間、捨てられることなく大切に大切に保管されたタヌキたちは、夫の一番の理解者である妻の優しさの証。

  太陽の陽射しが差し込む明るい部屋で、温かい家族に囲まれて彼は幸せに旅立つのだろう。

  彼の人となりに触れながら、ひとときの時間を過ごさせていただいた心温まる訪問に今日も感謝の一言しかない。

  家の力はすごい。死を目前にしていても彼は彼らしく、今ある自分と戦いながら毎日を過ごされている。

今を生きる。

今日ある命に感謝して…

看護師 本井 万寿美

 

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